[読書感想文]梨木香歩『裏庭』ー心と向き合い前に進むということ

2021年4月9日

『裏庭』(梨木香歩 新潮文庫)は、1995年の第一回児童文学ファンタジー大賞受賞作品です。

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背表紙より本作品の紹介。

昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の「秘密」へと入りこみ、声を聞いたーー教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。

児童文学ではありますが、読解力の乏しい私には難解な表現も多い印象です。

しかし、何年も心にとどめ続けていた感情の傷を出し切ることで癒し、家族関係を回復していく物語が、「心と向き合うことによって人は前進する」というメッセージを与えているように感じました。

「本当に強くなったんだとお思いになる?私は違うと思うの。それは鎧みたいなものなの。」

私は、本音をあまり言えない性格ですので、素直な感情表現ができなかったときよく体が重くなるのを感じます。

自分が傷つかないように身にまとう様子は、まさに重たい「鎧」なのだなと読んでいて感じます。

そして「鎧」は脱ぐのが難しい。

作中では、自分の心の奥にある感情を表に出し、鎧を脱いでいく人々が読み取れます。

傷を恐れず、のっとられず、育み育てる

主人公の照美は、裏庭という異世界に傷と向き合う旅に出ます。

そこで出会う3人の「おばば」からそれぞれ、傷への向き合い方を学んでいきます。

傷つくことを極端に恐れることで人は縮こまり、身動きが取れなくなってしまう、

傷を意識しすぎて、自分が本当に大事にしたいことがわからなくなってしまう、

だから、傷も自分の人生の一部として受け入れることで前へ進むものなんだと改めて思います。

なにも傷というのは単に苦しいと思うことだけではなく、嫌いとかつまらないという負の感情全体に言えるものだと感じました。

執拗に拘っているものがある時、人は立ち止まっている気がします。

「生体っていうのは自然に立ち上がるもんよ。傷で多少姿形が変わったとしても。」

立ち止まっていることが、決して悪いことではないのでしょう。

人は、傷を受けたその時から、さまざまな体験を経て受け入れる準備をしていくのだなあと。

しかし、まだまだ私は無理にあらがってしまいそうです。

「私は、もう、だれの役にも立たなくてもいいんだ」

照美は、自分の心を押し込めて「パパとママのことばかり考えてきた」ことに気づきます。

自分を苦しめる必要がなくなった一方で、そのことが家族を結びつけていた絆だったということにも気づくことで、照美は絆がなくなった「寂しさ」という傷も負います。

しかし、その傷はいずれ回復するものと信じることができました。

それが、傷を受け入れ前に進む経験をした旅の成果だったのだと思います。

同時に照美の両親も、感情を吐き出すことで自分の傷を癒して、互いの家族との絆を深めていこうとしています。

傷を受け入れ、前進することは、その傷に対する感情を探しだして受け入れて行くことなのかもしれません。